林トモアキ『戦闘城塞マスラヲ』”等身大の自分”の否定、あるいは”最も新しき神話”の誕生。
あらすじ戦闘城塞マスラヲ Vol.1負け犬にウイルス (角川スニーカー文庫)
- 作者: 林トモアキ,上田夢人
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/10/31
- メディア: 文庫
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高卒で上京し就職活動に励んでいた主人公、ヒデオ。しかし生まれ持った目つきの悪さがあだとなり、履歴書を提出した34社全てが不合格。そのまま引きこもり2年が経過した。生活費が尽き自殺を考えていたある日、ヒデオはゴミ捨て場でノートパソコンを拾う。持ち帰ったそのパソコンから現れた、コンピューターウイルスと名乗る少女、ウィル子に焚き付けられ、ヒデオはウィル子と共に”聖魔杯”なる武闘大会に出場することとなる。
聖魔杯。世界を律する権利者である聖魔王を決める大会。優勝資格は「勝ち続ける事」。勝負方法は問われない。
就職活動においては、書類選考で落とされ勝負の場にあがることすら出来なかったヒデオは、この、初めてあがることのできた戦場で、勝ち続ける為に戦っていく。
というわけで就職活動がメタファされた異能力バトル小説。
単なる運で初戦に勝ち、その後も偶然と機転で勝ち続けたヒデオ。
神々すら参加している大会に、まさかただの無職が参加しているとは誰も思わず。ヒデオはその目つきの悪さから”未来視の魔眼使い”と呼ばれ、恐れられる事となりました。
この物語の世界では、未来視の魔眼は既に存在しないものとされていました。何故なら、かつて在った大きな戦いで、未来視が見た絶対の未来を、現在の聖魔王が、一個人が打ち破ったから。
既に”大きな物語”は失われ、かつての神々すら一個人として生き、参加しているこの聖魔杯で、”未来視”という、失われた物語の名をヒデオは名乗ってしまった。
もとよりそれはただのカン違いで、彼は勝ち残るためにその嘘に乗ったにすぎませんでした。しかし嘘を吐き、等身大の、ただの無職である自分自身を否定し続ける事を選んだ以上、彼は成長することを余儀なくされます。
勝ち続けたり、ラブコメしたり、借金の取立てしたり、カーレースしたり、負けたりしながら、楽しく続く全5巻。
そして彼と彼のパートナーである電子精霊は至ります。”最も新しき神話”へと。
再生される”大きな物語”と、それはそれとして続いていくヒデオの人生の物語。なんだかとっても良い小説を読みました。続編ももうすぐ始まるそうですし、今が読み時です。とてもおすすめ。