そこなしハッピーエンド4

本の話とかアイドルの話とか。

石田衣良『娼年』担当:倉持明日香

娼年 (集英社文庫)

娼年 (集英社文庫)


 何に対しても強い欲望を持てずに生きてきた青年がある日出会った女性にスカウトされセックスワーカーとなり、様々な女性の欲望に触れていくお話。角の立たない部分だけで説明すると倉持さんはメンバーの耳よく食べてる耳フェチの人なので"様々な女性の欲望"の部分とのマッチングでこの本担当なんだと思うんですがAKBはほんとゴシップ取り込み的なのやるよね……。
 愛がないから色々な欲望や社会的に悪とされる状況をフラットに受け入れる主人公と、愛ゆえに主人公の状況を許容できない主人公の女友達。あなたのためにやるんだからね、好きだから私には権利がある、と言いながら主人公を否定する行動をとる女友達を見た時のこの気まずさは、アイドルヲタがよく陥る錯誤だからでしょうか。
 何を読んでもそこそこ楽しく読めるいつもの石田衣良。アーバンな描写が逆におっさん臭いのもいつもどおり。

斎藤茂太『人の心をギュッとつかむ話し方81のルール』担当:篠崎彩奈


 タイトル通りの本。各項目2ページ程度に綺麗にまとめられており大変まっとうな内容なんですが、篠崎彩奈ちゃんのファンがみんなこれ読んで握手会行くと考えるとなんかすごい愉快な光景ですね。やたらコミュニケーションの円滑なレーンが現出。

赤川次郎『吸血鬼はお年ごろ』担当:前田美月

吸血鬼はお年ごろ (集英社文庫)

吸血鬼はお年ごろ (集英社文庫)


 長編シリーズを多く抱えることで有名な赤川次郎が少女小説レーベルのコバルト文庫で発表している作品。作者の他作品と同様長期に渡って続いており、1981年の本作発表から未だに新刊が出ている。
 吸血鬼の一族である女子高生のエリカとその父を中心にドタバタと殺人事件などを解決するコメディ小説。一部現代の中学生が読むと意味が取れないと思われる言葉遣いがあるのを除けば今でも楽しく読めるので驚いた。
 本文中に使われていた「翔んでる」という当時流行語だった表現が、同じ頃出版された山口百恵『蒼い時』にも出てくるのが面白くて、世代を横断した流行が成立していた時代を感じる。『翔んだカップル』は70年代末の連載なので回想文である山口百恵の本はともかく赤川次郎のほうは出版時点で微妙におっさんくさかったのではという気もしますが。たぶん狙ってやってるように思う。

岡崎弘明『学校の怪談』担当:大森美優

学校の怪談 (集英社文庫)

学校の怪談 (集英社文庫)


 1995年に公開された同名映画のノベライズ。ホラーというよりはジュブナイルな雰囲気だった映画を踏襲してなのかあんまり怖くない。「トイレのえっちゃん」とかギャグだと思って読んでたらどうもホラーシーンだったらしいとあとから気づいたくらい。寺の息子が活躍するシーンで「寺育ちのTさん」を思い出して愉快な気分になったのは外部文脈なのでこの本に責任はない。

浅田次郎『鉄道員』担当:入山杏奈

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)


 高倉健主演で映画化した『鉄道員』を含む8作品が収録された短篇集。浅田次郎はこの本で直木賞を受賞受賞しています。
 ナツイチは集英社の企画なので集英社の小説すばる新人賞受賞作が多数含まれているのですがそれらの作品と比べると浅田次郎の小説はあからさまにエンタメに寄っており、直木賞はエンタメ小説賞なのだなあと納得する。収録されているどれを読んでも面白かった。
 死者との邂逅を扱った作品が多くそこに特に理屈がないのが寂しかったりもしますが、死者の出てくる話は理屈を作るとSFになり、理屈を説明しないとホラーになるので人情話としての純度を上げるには理屈が存在しないほうがいいんだろうな。全体的にエロゲやる人が好きそうなノリ。
 早くも、AKBメンバーへの言及をいれるのがきつくなってきたので構成を考え直します。とりあえず更新。

谷村志穂『3センチヒールの靴』担当:大場美奈

3センチヒールの靴 (集英社文庫)

3センチヒールの靴 (集英社文庫)


 大人の女性の恋愛のちょっとした機微を切り取った短編をまとめた1冊。1編目の「冷たい水と、砂の記憶」で意味の感じられない唐突な描写があり、なんのために入れたのだろうと首を傾げながら初出を見たらロッテ健康機能食品事業部ホームページでの連載とのこと。確認していませんがどうも毎回その事業部の商品をひとつ絡めて書いているようです。昼間にテレビをつけっぱなしにしていたら面白そうなドキュメンタリーがやっていて、40分くらい経った所で健康食品のCMだったことに気づいた時の気分が好きな人に結構おすすめ。だんだん絡め方が上手くなっていくところも良い。
 主に食べ物と絡めるところからそうなったのか、女性の心情が身体の反応に引きづられて話が展開するものが多い。ロッテ連載以外もなのでそういう作風なのかも。
 年始に今年は読書を趣味にする! と言ってから何回か挫折しては復活してるみなるんでも6月中に感想文提出してたし、20ページ未満の短編ばかりなのでするする読めます。

山形石雄『六花の勇者』担当:佐藤すみれ

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)


 ミステリ、SF、ファンタジー等のいわゆるジャンル小説読者から評価が高かった山形石雄がデビュー作「戦う司書」シリーズを全10巻で完結させた後、新たに始めた長編シリーズ。そのファン層にまさにドンピシャであるところのファンタジー世界を舞台にしたミステリです。作家やライター、及び読者へのアンケートで毎年ランキングが発表される『このライトノベルがすごい!』2013年度版では、集英社から発行されているライトノベルとしては最高順位の3位にランクインした人気作。
 数百年ぶりに復活しようとしている魔神を封印するために勇者が集まる。伝承では六花の勇者と呼ばれ6人のはずなのに、勇者の証である六花の紋章を体に持つ者は7人いた。いったい偽者は誰なのか、というシンプルなフーダニットを軸にした小説。作者特有の緻密な構成と緊張感は今作も維持されています。「偽者は誰か?」という謎は1巻で一応すっきりと決着しますが、直後別の謎が立ち上がり2巻へと続いていくので続刊も読みましょう。現在3巻まで刊行中。
 佐藤すみれさんは、AKBでは屈指の読書家で知られており朝日小学生新聞にブックレビューの連載を持っていたこともあります。紹介していた本の傾向がYAに寄っていたり、瀬尾まいこ重松清を好きな作家に上げていたりとナツイチがまさに対象読者層として想定するような「ジャンル小説読者でない小説読者」である彼女が、今回のラインナップの中で際立ってジャンル小説的である本作を担当するのはなんだか面白いですね。1巻を楽しんで続きも読んでいってくれたら嬉しいな。