そこなしハッピーエンド4

本の話とかアイドルの話とか。

蒼山サグ『ロウきゅーぶ!』3巻 身の丈を知るということ。

ロウきゅーぶ!〈3〉 (電撃文庫)

ロウきゅーぶ!〈3〉 (電撃文庫)

あらすじ。

主人公の高校生、昴くんは女子ミニバスケットボール部のコーチをしています。
彼は失っていたバスケットボールに対するモチベーションをミニバスケットボール部に所属する少女たちを指導し見守ることにより取り戻した為彼女たちに恩を感じており、また彼の学校のバスケ部は不祥事により部停止中で時間があるため、彼女たちを指導することにけっこうなパワーを割いています。
しかし少々入れ込みすぎ、自身の勉学や学友との同好会活動をないがしろにしはじめた昴くん。その様子を心配した幼なじみの葵が心配して女子ミニバスケットボール部に乗り込んできました。そして彼女は、昴くんを賭けて試合をすることを小学生たちに提案します。それが、今回のお話。

身の丈を知ること。

僕があらすじをかいたらすっぽり抜けちゃいましたが、今回のお話のメインはミニバスケットボール部員の一人、愛莉です。
小学生たちはもうすぐプール開き。しかし愛莉は泳ぐことができないので意気消沈していました。そこで昴くんは彼女に水泳をおしえることになります。
バスケットボールのコーチである彼がそこまでやる必要はないのですが、子どもの成長を見守ることのまぶしさに目がくらんで物事の優先順位がずれてきた昴くんは、そこまで面倒をみてしまう。
その結果自身の学業などに支障が出始めることとなります。

愛莉は気弱な子で、にもかかわらず身長が170センチを超えようかというほど高く目立つため男子にからかわれやすく、自分の身長に対して強いコンプレックスを持っています。
チーム一の身長を持っているのだから本来はセンターをつとめるべきなのですが、コンプレックスとしている身長を根拠にポジションを与えられることに彼女が耐えられないとコーチの昴くんが判断したため別のポジションとなっています。

今まではそれでもよかった。けれど昴くんを賭けて、勝負することになった時、愛莉はそれでは足りないということを思い知ります。
小学生5人対高校生3人という人数のハンデがあり、優れた技術と才能を持った仲間がいても勝つことができないということ。身長という要素のバスケットボールにおける意味。

昴くんはそれを見て、まだまだ発展途上な彼女たちでは勝つことができないと諦めます。しかし愛莉は自力でちゃんと気づいて乗り越えるのです。自分の持って生まれたものを最大限に利用するには、どうすればよいかと。

章間にはさまれる、各登場キャラクターのプロフィールでも身長を秘匿していた愛莉が、文字通り身の丈にあった役割を受け止めて成長するという、なんだかうまいこと言われたようなお話ですね。



しかし、それでも届かないのです。目の前にいる高校生も、同じように問題を乗り越えながら、これまでバスケットボールを続けてきたわけですから。

所詮モラトリアムにすぎない。

まことに恵まれた環境と先達に囲まれた小学生たちなのですよ。
本来、愛莉がセンターをやるべきということなどは、一度公式戦に出れば思い知ることが出来たことです。その公式戦での負けは彼女たちの心に傷を残したことでしょう。
将来的に必ず直面したであろう壁を、予行練習的に知ることができ、曲がることなく成長を志向するようになれるのはとても幸運なことです。

しかし今回の試合も、1,2巻の試合も彼女たちの人生においては予行練習的なものにすぎないんですよね。
あくまでモラトリアムの中で行われている事象であり、スポコンものとして読む向きには物足りなさ過ぎる、という声も聞きます。
でもまあ、小学生のモラトリアムに大人がけちをつけるのもあほくさい話ですし、もしモラトリアムのから脱却が描かれるのであれば、それは外部からの要請ではなく彼女たち自身が選ぶものでしょう。

ヒロイン側に与えられた、ハーレムを停止させる力。

ミニバスケットボールには第3クォーターまでに10人以上試合に出さなければいけないというルールがあります。
さて、現在女子ミニバスケットボール部に所属するのは小学6年生の5名。彼女たちは公式戦に出ることができません。

もちろん新キャラが5人追加で出てきて公式戦に参加する、という展開も考えられますが、僕はそうならないんじゃないかなと思っています。
彼女たちが、5人で公式戦に出られるようになりたいと願ったなら。
おそらく中学生編が描かれるのではないか。中学生になればミニバスケットボールからバスケットボールに変わるので、5人でも出場可能です。


まだあと9ヶ月ある小学校生活。今までは一巻につき一月を描いてきましたが、これから先9冊かけてこの守られた空間を描くかといえば、そうはならないのではないか。

彼女たちがモラトリアムからの脱却を願ったとき、物語の時間は加速を始める。そのとき、停滞している昴くんの物語も再び動き始めます。
おそらくそれは、ヒロインの小学生達の側から、昴くんとの一時的な決別を選ぶ事により始まるのでしょう。

この、時間をすすめる権利をヒロイン達が持っているという点なんかもロウきゅーぶを気に入ってる理由のひとつなのですけど、まあまだまだ妄想です。






売れ行きも良いようですし、かわいい小学生とのきゃっきゃうふふを描くだけで続けていけるのだからわざわざスポコン方向に振ったりはしないんじゃないかな、とも思うのですけど。3巻を読んでいると巻きに入ってる気がして、どうもその先も書いてくれるのではないかと思ったのですよ。

ということでこの巻も楽しませて頂きました。本当に、わりと本気で生きる気力の幾らかを頂いているシリーズなので今後も楽しみにしています。
今回は、このあたりで。