そこなしハッピーエンド4

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竹宮ゆゆこ『とらドラ!』うらやましくない青春時代 その2

とらドラ10! (電撃文庫)

とらドラ10! (電撃文庫)

小説とアニメ共に、先日完結した『とらドラ!』について少し。

原作小説において、大河の父親は「この世界には本当にどうしようもない人間もいて、その人の存在が自分の人生の大きな障害となるならば切り捨てるしかない」という判断の元に物語から退場しました。
アニメでは、竜児の父親もまたどうしようもない人間であったということになり、視聴者に殆ど引っかかりを残さない形で処理されました。
その判断は、現実であれば大いにありうることです。なにより自分と自分の大切な人の人生を優先するのは何もおかしくない。

しかし、子供は親がいないと生きていけません。大河のような、虐げられた子供たちが親を切り捨てることができないのは彼らが子供だからでした。

その解決策として一番手っ取り早いのは、彼らが大人になることです。学校を卒業するという事は、それを表すわかりやすい暗喩であるので、アニメ版では卒業式がラストシーンとされました。


僕は大人がどのような人生を選んだとしても、特に抵抗を感じません。
なので、”青春時代”を舞台にした物語においては、生きのこった子供たちが物語の終わったあとに無事生き延びていける未来が見えれば、安心して本を閉じる事ができます。
青春そのものを永遠にしたいのなら、偉大な先人たちに習って死んでしまってもよいです。

原作小説は、高校2年生だった彼らが高校3年生に進級するところで終わります。そして元と変わらない、学生生活に帰っていきます。思わずなんじゃそりゃーと叫びました。嘘です。予感どおりの終わり方でした。しかしこの子たちどうなるのだろうとぐるぐるまわって消化できません。

ちょっと作者ひよったんじゃないの、とか今でも思っています。竜児の母子関係に対して大河の父子関係の話を持ってくるのが自然であろうところが共に母子関係で簡単に終わってしまいますし。

1巻がすばらしかったので今まで読んできたのですけれど、7巻で僕の見たかったものが垣間見えたのを最後に評価がだだ下がってしまいました。
わたしたちの田村くん』も1巻だけなら良い本でしたし、そういう作家さんなのかなあ。


アニメ版は、原作小説において本来あったものの、巻が進むうちに取捨選択された要素を、最初から整理したうえで構成されているため、物語の出来としては原作小説より上です。しかし結果として、”とてもよくできたラブコメ”に収まっています。






とらドラ!』は、この先生きのこれるかどうかもわからなかった少年少女達が、無事生きていけるようになるまでを描いた物語でした。

アニメ『とらドラ』最終話で見る事ができる大河や竜司の幸せそうな姿は、彼ら自身の過酷な人生のとりあえずの結果として、”青春時代”を生きのこることができたからこそのものです。


僕は、偶然うまいこと生き残り、なんとか大人になれました。
中学生や高校生の頃には、楽しい事いっぱいありましたけど、もう一回やったら生きのこれる気がしません。
どれだけ幸せだったとしても、戻りたくは無い時代です。

ですから、彼らがどれだけ幸せそうに見えるからといって、僕は決して彼らと同じような人生を送ってみたいとは思わない。

大河は、偶然竜児と出会ったことにより生きのこることができましたが、同じ状況で生きのこれない子供は沢山います。
もし大河が父親から性的虐待を受けていたりしたならば、より生きのこれなかった場合の悲壮さが増して、話がわかりやすくなったなとかちょっと思います。
それをやると超ド級青春ラブコメライトノベルではなくサイコ陵辱ノベルになるので、やらなくて良いんですけど。


僕は、『とらドラ!』を”青春時代”を描いたマスターピースになりうる作品であると期待して読んでいました。
ですので、原作の後半の展開はとても残念でした。
まあ、勝手な言いがかりです。










という訳でとらドラは大好きなので、毎月とっても楽しみしてDVD買って、こころゆくまで楽しんで、消費し尽くして思い出に沈めてしまおうと思います。ありがとうございました。