そこなしハッピーエンド4

本の話とかアイドルの話とか。

蒼山サグ『ロウきゅーぶ!』その2 すべてを失った男の復活劇

何だか知らないけどやたらと気に入ったので、もうちょっと書く。

ロウきゅーぶ! (電撃文庫)

ロウきゅーぶ! (電撃文庫)

中学バスケでの輝かしい実績と能力によりスポーツ推薦で高校に入学した長谷川昴くん。しかし高校入学直後、部長が小学生と恋仲であることが発覚したことにより、バスケットボール部は一年間の部停止となった。
目標だった部長。大好きなバスケットボールを出来る環境。ロリコン一派扱いされることにより失われる社会的立場。
何もかもを失った昴くん。そこに小学校の先生をやっている従姉が女子ミニバスケ部のコーチの話を持ってくる。
最初は嫌がった昴くんだが、なし崩しにコーチを引き受けることとなり、五人の女子小学生達と出会うのでした。

そんな導入で始まるこの物語ですが。

この話の気に入ってる所は、主人公が自分の物語を生きている点であったりします。
表紙も挿絵も女の子だらけで主人公は一回しか出て来ない上に顔が見切れていたりするのですけれど、この話は、全てを失った主人公が再び歩き出すまでを描いた物語です。あくまで主人公が主格。僕としてはビジョルドの『チャリオンの影』と同系統の話なんじゃないかと思っています。女の子の教育係になる所も似ている。

チャリオンの影 上 (創元推理文庫)

チャリオンの影 上 (創元推理文庫)

多数ヒロインがでるライトノベルだと、各ヒロインの物語に主人公が踏み込むことで、物語が駆動されることが多いですが、昴くんはそれをしない。それをしそうになるシーンもありますが、自力でその暴力性に気づいて踏みとどまる。バスケ部のコーチという自分の役割の上でできることを、する。そして自分の物語に帰っていく。

ハーレム主人公の話でも好きなものはいっぱいあるのですけれど、ただ僕の好みとして、「僕の物語」と「君と僕の物語」の範囲をこえて「君の物語」に踏み込んでいく主人公がどうにも苦手で。だからこの『ロウきゅーぶ!』の主人公である昴くんのまともさがとても心にしみたのでした。