蒼山サグ『ロウきゅーぶ!』4巻 その2 国母選手から学ぶマイナースポーツの現状。
- 作者: 蒼山サグ,てぃんくる
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 704回
- この商品を含むブログ (48件) を見る
題名は釣り。
最近冬季オリンピック――主に国母選手――のおかげで、マイナースポーツに関する言説がちょいちょい見られます。
マイナースポーツをする環境の整備って、国内ではほんとに出来てなくて悲しいものです。
『ロウきゅーぶ!』で扱われているバスケットボールというスポーツも、日本国内ではマイナースポーツです。いちおうプロリーグはあるものの、未だ子どもが素直に目標として目指せるものには育っていません。
所詮学生の間だけ打ち込むものである、という感覚が子ども達の中にある。
だから、一年休部になったというただそれだけのことで、主人公の昴くんはそれまで真剣に打ち込んできたはずのバスケットボールをわりあいあっさりとやめてしまおうとします。
これが野球題材であれば、プロ野球がちゃんと目標として機能しているので、肘を痛めた等の本当に続けられない理由が設定されることが多いですね。
ひとりぼっちの王様とサイドスローのお姫様 (メディアワークス文庫)
- 作者: 柏葉空十郎
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2010/02/25
- メディア: 文庫
- クリック: 25回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
ということを、先日あるブログ記事で読みました。
さて、ロウきゅーぶの4巻。
今回の舞台は普段の小学校を離れ、合同練習合宿の為に訪れた他校です。
道中、顧問の美星先生が盲腸で倒れ、コーチといっても昴くんは高校1年生。子どもだけで訪問先に赴くこととなります。
今まで守ってきた”児童期の象徴”である普段の練習場を離れ、大人としての役割を昴くんが担っている為子どもっぽくてあまり役にたってないと思われながら、それでも大人である美星先生が不在となった状況で、昴くんと子ども達は、バスケットボール競技自体と向き合うことになります。
昴くんとミニバス部の小学生達の出会いは、本来ありえないもの(ファンタジー)です。*1
ファンタジーと現実を行き来することをできる人間が世界を豊かにする、とミヒャエルエンデも言ってますが、シリーズものであるが故に自らの現実への帰還を引き伸ばされ続ける最近の昴くんは、女の子達の才能に魅せられて、ファンタジーに侵食されていました。
そんな昴くんを現実に繋ぎ止めるために、前巻では幼なじみが、そして4巻では野火止麻奈佳というゲストキャラクターが登場します。
彼女は現在、昴くんと同じような境遇で、ミニバスケットボールチームのコーチをやっています。
同じような境遇といいつつ、彼女は昴くんよりも年上で、膝を痛めて療養中の為バスケをプレイ出来ません。バスケットボールを続けて今までの実績を超えるのはほぼ不可能です。
それでも彼女がバスケットボールに関わり続け、選手に復帰することを諦めていないのは何故か。それに触れることによって、再び自らの現実としてのバスケットボールとの向き合い方を再発見します。
そして選手の小学生たち。彼女たちは今回、ルール上自分達が公式試合に出られないことを知ってしまいます。それは、「おまえたちはファンタジーに過ぎない」と突きつけられる事です。今やっていること、やってきたことが未来へ続かないと知って、特にショックを受けた真帆は、練習から逃げ出してしまいます。
でも、1巻からこれまで、この世界で”今、ここ”にコミットすることをナチュラルに選んでいくことのできる人間であることを彼女たちは示し続けてきたんです。今回だって立ち直り、今、バスケをやる自分にとっての意味を再獲得していきます。
これまで不敗だった彼女たちは、ファンタジーから一歩踏み出し当然のように負ける。そして昴くんの現実と少女たちのファンタジーの交差点にすぎなかったバスケットボールが本当の意味で彼女たちの世界に組み込まれはじめる、今回はそんなお話でした。
それがモラトリアムでしかないという感覚を描く題材としてのマイナースポーツ。
”それでも”。”今、ここ”。
ライトノベルという大人不在であることが多い媒体で、顧問が不在となる状況を描くことで、大人が児童の為に果たさなければいけない役割を示す。
相変わらず丁寧な出来で、これがラノベじゃなくて週刊少年マンガだったらあっというまに打ち切られてるなーとおもいました。世知辛い。
- 作者: 宇佐悠一郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/09/04
- メディア: コミック
- 購入: 2人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
電撃文庫もスポーツ物を何度となく打ち切ってきているわけで、ロウきゅーぶが売れているのはほんとに素敵なことです。その下地がなかったら、MW文庫でスポーツ物の小説がするっとでることもなかったんじゃないかな。
自分の感想を見返していたら、2巻の感想から書いてる事が変わってなかった。もっと面白く読め!
しかし、再獲得のフェイズを描かれないと子どもの資質を素直に受け止められられないなんて、大人ってやーね。
*1:俺何回このブログでそれ書いてんの、と思った。一回でまとめろよう